繁殖

繁殖は、BORZOI.jpオープン時には、当マニュアルの「健康」の中に分類してあり、繁殖者の責任の重さについて触れるのみに留めていました。今も、それぞれが繁殖における命への責任を真剣に受け止めた上での決断ならば、他人が是非を問うべき問題ではないと思います。

しかし、「飼い主がどうしたいのか」という人間側の視点ではなく、「不幸な犬を少しでもなくすために」という犬側の視点から、繁殖を考える助けになればという思いから、このような別項目としての掲載に変更することにしました。「不幸な犬を増やす恐れのある」考え方については、さらに熱く、しかも早急に伝えたいという想いから、多少、表現が押し付けがましくなってしまうかも知れません。不快に思われることもあるかも知れません。どうぞご理解ください。



愛ゆえに(かわいいから)繁殖する?

多くが感じている、とても一般的な概念です。そして同時に、「やってはいけない」と言われるナンバーワンの行為でもあります。

BORZOI.jpは、「かわいいから」の繁殖を、頭ごなしに否定はしません。しかし、かわいいからという理由「だけ」の繁殖には、強い反対の姿勢をとります。


「かわいい」のは、自分の犬のどこでしょうか?その犬を繁殖をしても、まったく同じ犬は現れてはきません。自分の犬の血がかわいいなら、出身犬舎で、同じ犬の血を持つ子犬は生まれています。自分の家で迎えていない犬をそこまで愛することができるなら、次に迎えた犬も、同じように愛することができるでしょう。自分の家で生まれた犬しか愛せない人たちばかりだというなら、あなたは生まれた子犬を、どこの家族にも安心して託すことができないということになりませんか?


一方で「1回は経験させてあげたい。そうしないとかわいそう」と感じる方もおられるようです。最近の風潮として「犬を家族のように」考える人が増えてきています。しかし、これは「犬を(犬として)家族のように」考えるのであって、擬人化を促すものではありません。犬には「子犬を生んで初めて、親(飼い主)の気持ちがわかった」とか「女に生まれたからには、子供を産むことが幸せだ(人間の間でもちと古いかもですが)」とか「子犬の成長過程を見守って楽しむ」部分はありません。犬は人間のように、セックスによって得る快感や、相手との精神的つながりを求めるのではなく、本能によって繁殖だけのために交配を行う動物です。いくら健康でも、いくら良い性格でも、繁殖をさせないことが「かわいそう」という理由は、犬にはないはずです。犬に自分の欲求を押しつけていませんか?


ですから、わざわざあなたが「かわいいから」繁殖をする理由は、なにもないのです。それでも、かわいいものはかわいいですから、愛情を繁殖という形でしか示せないとお考えになるのであれば、ボルゾイという犬種としての自分の子に対し、正当な理由/目的を伴った繁殖を行うという意識と準備が必要です。論理的な目的のない繁殖は、スタンダードを守るどころか、壊していく可能性を少なからず持っています。必ず、感情論だけではなく、論理的な目的を持った繁殖を行ってください。


たった1度の繁殖で、あなたの命と同じ尊さを持つ命を、10つもつくり出してしまうことになるのです。そしてその10つの命も、更にいくつもの命がつながっていく一族のピラミッドの頂点になります。あなたが新たな頂点をつくり出す行為なのです。ものすごい責任だと思いませんか?


繁殖を断念する勇気も、立派な愛情表現のひとつです。


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素人繁殖

素人繁殖とは、言葉の上では「経験のない、または経験の少ない繁殖者による繁殖」を示しますが、否定される場合の意味合いは、「素人であるということを免罪符にして、どんな犬をどんな目的で(または何の目的もなく)作っても許されることを期待する繁殖」です。多くの場合、後者の意味で「素人繁殖はいけない」と言われるのであって、世界のトップブリーダーであっても、最初は素人繁殖です。


では、その違いはどうやって作られているのでしょうか?


BORZOI.jpが主催するメーリングリストZoiで、世界トップレベルのクオリティを認められた犬をつくり出したブリーダーさんが、以下のような「ブリーダーの心得」を提示してくださいました。BORZOI.jpは、これを全ての繁殖者に適用される心得として、ここに紹介させていただきたいと思います。(ボルゾイジェイピーによる勝手な註釈です)


1 トップクオリティのメスでスタートして下さい。最初の1頭が十分に良いクオリティでなければ、別のメスを手に入れなさい。


2 ブリーディングプランを持つことはすばらしいことです。しかし、必要に応じて変更する場合も考えておいて下さい。


3 念頭に(目標とする犬の)イメージを定めて下さい。あなたがそれを持っていないのなら、ブリーディングを行う意味がありません。


4 自分の犬を正確に評価しなさい。的確に自分の犬を見られない人に(犬のクオリティを)正す(または保つ)事はできません。


5 数多くの犬を見て、見て、見て下さい。そしてその犬種の感触を掴んで下さい。


6 ブリーディングはゆっくりと行い、学んで、学んで、学んで下さい。クオリティの良くない犬を増やしすぎたら、これ以上繁殖を行う余裕も意味もなくなってしまいます。


7 すべてのブリーディングを価値のあるものにして下さい。


8 最高に厳しく、自分の犬を遺伝子的にふるいにかけるようにして下さい。


9 問題のある犬は、それを愛して(自分で)飼うか、それを的確に説明して飼育してくれる新しい家を探してください。そして絶対に繁殖をさせたりしてはいけません。


10 並の質ものは絶対に繁殖してはいけません。


11 健全性(良い性格、良い頭部、良い胸と肩、良い下半身&良い背腺)のあるブリーディングをして下さい。そして、良い胸と肩の角度と背腺を得ることと保つことは、もっとも困難なことです。しかし、これは最重要に考えてください。そうしなければ将来のブリーディングに問題が生じてしまいます。


12 悪い尾(高く持ち上がること、かつ/または巻くこと)は、繁殖で消すことは難しく、これも後から再びつきまとうことになり得ます。


13 あなたの雌犬をブリーディングする時、何を達成したいかを知って下さい。そして、そのクオリティーに達成してない子犬作ったり残してはいけません。


この心得を出して下さったブリーダーさんは、心得のどれ1つも、欠けてはいけないものと考えておられ、その中でも、特に11と12を重要視しておられました。


あなたが素人であろうとプロであろうと、繁殖を行うのが1回であろうと100回であろうと、生まれてくるのは命を持った犬です。繁殖にはかわりはありません。心得中にもありますが、たった1回の繁殖すら、その犬種にとって無駄なものにはしないでください。私たちの犬種にとって、無駄なものにはしないでください。


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繁殖のプロとアマ

繁殖、またはブリーダーに、プロとアマという表現があります。繁殖を行おうとしているにもかかわらず、「私はブリーダーではない」という表現を使う人もあります。ブリーダーは繁殖を行う人のことです。職業名ではありません。


では、プロとアマという表現はどうでしょう? 回数や経験年数のみを単純に見たなら、このような表現も使えないこともないかもしれません。しかし、繰り返しになりますが、アマチュアであることが、素人繁殖と同じように、無駄な繁殖、言葉を変えると、目標のない中途半端な繁殖を行っていい理由にはなりません。

生まれてくる犬は、どの子も命を持っているんですもん。


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ショータイトル(チャンピオン)と繁殖

一般に、「いい犬=チャンピオンのタイトルをもつ犬」とか、「チャンピオン=繁殖する犬」という誤解があります。さらに、売買の場面では、「ショータイプだから、この犬は高いよ」とか、「ペットタイプでいいから、安く欲しい」という声を耳にします。


でも、ドッグショーに出るには、チャンピオンのタイトルが必要ではありません。タイトルがないからこそ、ショーに出て獲得するのです。ですから、全てのボルゾイは、ショータイプの潜在性を持っていることになります。

また、スタンダードの項から順番に読み進んでいただいた方ならおわかりかと思いますが、スタンダードは、いわばそれぞれの場における「目安」です。この目安を元に、ジャッジの判断によってドッグショーでは勝敗が決まるのですが、チャンピオンのタイトルが、繁殖に直結するわけではありません。

ドッグショーの勝敗は、「その日のコンディション」と「ジャッジの好み」で決まるものとも言うことができるかもしれません。ですから、繁殖の是非はもちろん、そのリングにいないときの犬のクオリティまで評価されているとは、言いづらい部分があります。たとえば、たまたまその日のリングで上手に歩けた犬が、もっとクオリティが高く、たまたまうまく歩けなかった犬を負かすこともあります。そして、まったく同じクオリティの犬がいたとしても、ジャッジのスタンダードの解釈や色の好みで勝敗が決まることだってあり得ます。だからこそ、チャンピオンの称号が犬自体の絶対的な価値を決めるものではなく、だからこそ、ショーチャレンジがおもしろいのです。


先日、「チャンピオン犬の子犬は高くて・・」というお問い合わせをいただきました。そのお返事の一部を転載します

> そもそもチャンピオンは「子孫を残すのにふさわしい条件の一部を
> 満たしている」犬に与えられる「お墨付き」のようなものだと思い
> ます。私たちはこれを、繁殖のための最低基準と受け止めています。
> チャンピオンという言葉を「ステイタス」「ブランド」のようなニュ
> アンスで捉えている方が多いと思いますが、容姿の美しさはひとつ
> の側面であって、健康面・性格面などの要素も含んでいます。
>
> 逆を言うと、チャンピオンですらない犬を使った繁殖は、純血種の
> 繁殖に対してその程度の関心や知識、責任感しかない人間によって
> 行われるという風にも考えられます。必ずしもそうとは言い切れない
> のですが、自分でその犬の品種についての判断が的確にできない
> 状態で犬を選ぶ限り(私たちももちろんそうですし、大部分の人が
> 該当すると思いますが)、避けておいた方が無難だと思います。


ここで誤解をしないで欲しいのですが、この場合、スタンダードが重要になっているのは「繁殖」においてです。


「チャンピオンですらない犬」はキツい表現と受け取られると思いますが、責められるべきは繁殖する人間側の姿勢であって、タイトルを持たせてもらっていない犬ではありません。チャンピオンを完成させることができた先祖を多く持つ犬は、チャンピオンを完成させることができる子犬を生み出す確率が高くなります。しかし、これも絶対ではありません。逆に、チャンピオンという文字とは無縁の血統書を持つ犬が、あっと言う間にチャンピオンを完成させることだってあるのです。ただし、言わずもがなですが、生まれてきた子、家族として迎えた子にはいい犬、悪い犬の区別もレッテルもありません。家庭犬としてのんびりと暮らしている愛犬をスタンダードに照らしてみては、はずれているかもと悲嘆することは決してしないでください。これは、スタンダードの正しい使い方ではありません。


しかし、繁殖を考えている人は、逆に冷静にこれができなくてはなりません。冷静な目で、スタンダードと愛するわが子を照らし合わせてください。そうして、自分の犬の欠点はなにか、どうしたらより良い犬を作り出せるか、そもそもそれが可能なのか、客観的な判断を下してください。たった1回でも、犬種全体にとって無駄な繁殖にならないように、慎重に行ってください。


繰り返しますが、スタンダードは「犬の良し悪しの目安」ではなく、ショーでは「勝敗のためのルールの基準」として使われ、繁殖では「健全な子孫を残すための目安」として使われるものです。我が子との関係や、愛情に影響を与えるべきものではありません。


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